ヤブガラシのまきひげは“味覚”をもつ?

ヤブガラシのまきひげは“味覚”をもつ?
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ヤブガラシとは

ブドウ科のつる性植物。日本国内では北海道から南西諸島まで、広範囲にわたって生息する(より正確に表すのであれば、繁茂する)多年生雑草である。(写真:5月中旬のヤブガラシ、放置するとここから大増殖する)

その増殖力は非常に強く、「街路樹のツツジがヤブガラシに飲み込まれかけていた」とか、「フェンス一面にヤブガラシが茂っていた」なんていう状況が街のあちこちで見受けられる。(写真:高密度で繁茂するヤブガラシ)

花は小さい。直径5mmほど。花被片は緑色で、開花後すぐに散る。その間わずか半日。露出した花柱と花盤が黄〜橙色と鮮やかな色をしているが、小さくて目立たない。とにかく地味。園芸的価値はほぼ皆無である。

さらに、花盤から染み出た蜜に多くの害虫が集まる。特に注意すべきはスズメバチ。スズメバチの成虫は終齢幼虫が分泌する液を主食とするが、この栄養液の不足分や終齢幼虫がまだ育っていない時期は蜜や樹液を吸う。しかし、スズメバチは大きな顎を持つため露出した蜜しか吸うことができず、ヤブガラシやコナラなどに集まるのだ。(写真:ヤブガラシの蜜を吸うキイロスズメバチ)

ちなみにヤブガラシ、名前から想像できるように食べると辛い。

“魔法の国からやってきたツチノコ”であるS氏はそんなヤブガラシを栽培してるとかなんとか…。

話が逸れてしまったが、今回はそんなヤブガラシに関する2つの研究結果を紹介したい。

より詳細にヤブガラシの形態的特徴を知りたい方には、以下のページ(お山登りるんるん会とは無関係)をご覧いただきたい。

リンク:https://ww1.fukuoka-edu.ac.jp/~fukuhara/keitai/yabugarashi.html

ヤブガラシのまきひげは同種の葉を認識して忌避する

これは2017年に東京大学助教の深野氏が発表した論文だ。論文の構成に沿って紹介していく。

リンク:https://royalsocietypublishing.org/doi/pdf/10.1098/rspb.2016.2650

背景

つる性植物のつるやまきひげが素早く動きながら伸長していく様子はC.ダーウィンの時代から観察されていた。しかし、まきひげが巻きつく対象物の化学的特性を感知する能力があるかどうかについて、これまで検証すらされてこなかった。

つる性植物はライバルの植物たちより少しでも早く成長して光合成に必要な光を独占するために、茎の強度を犠牲にして上へ上へと伸びる植物である。その代わり、周囲の植物や構造物につるをからまして自重を支えてもらう。したがって、巻きつく対象の選択はその個体の生存にも関わる重要なステップであると同時に、他の植物に比べてつる性植物は「触れたものに対する選択」に迫られる機会が格段に多いはずである。

まきひげに触れる機会が一番多いものはなんだろうか。それは、おそらく自分自身の茎や葉だろう。そこで想像して見て欲しい。まきひげが同じ種の茎に絡みついたらどうなるか。植物体がこんがらがるだろうし、そもそもあまり自重を支える意味をなさないだろう。自らの葉が重なり合って光合成の邪魔にもなるだろう。少なくとも、“自分には巻きつかない”という性質があってもいいはずだ。

そんなことを考えてヤブガラシを観察していた深野氏は、ある日「ヤブガラシのまきひげがカタバミには巻きつかない」という現象を見つけた。実はカタバミの葉にはシュウ酸化合物が多く含まれることが知られており、ヤブガラシの葉も同様にシュウ酸化合物が多く含まれている。これを受けて、深野氏は以下の仮説をもとに実験を行った。

仮説

ヤブガラシの巻きひげが識別・忌避している物質は、シュウ酸化合物である。

実験1:ヤブガラシのまきひげの巻きつきに選択性はあるのか?

まず初めに、ヤブガラシのまきひげがヤブガラシの葉を避けているのか検証された。

実験方法は至って簡単で、様々な葉を巻いた竹の棒にヤブガラシのまきひげが触れてから5時間後、まきひげが巻きついた角度を計測する。その角度によって「巻きつかなかった(<5°)」「やや巻きついた(5~175°)」「完全に巻きついた(>180°)」の3段階で評価した。

その結果、オオアレチノギクやカラムシなど、ヤブガラシが生えている環境でよく生えている雑草の葉を巻き付けた棒には、6~9割のまきひげが「完全に巻きついた」。しかし、ヤブガラシの葉を巻き付けた棒には、2割程度のまきひげしか「完全に巻きついた」状態にならず、7割以上のまきひげが「巻きつかなかった」。

一方、乾燥させたヤブガラシの葉や、ヤブガラシの葉の上にメッシュを巻いた棒には、まきひげの忌避反応が見られなかった。

以下の写真は野外調査での記録であり、野外調査でもこの傾向は確認できた。上の2枚ではヤブガラシのまきひげが他の種の茎に巻きついているが、下の写真ではまきひげがヤブガラシの葉に巻きつかず、這うように伸長していることがわかる。(Fig.1b)

さらに興味深いことに、「やや巻きついた」状態にあるヤブガラシのまきひげにヤブガラシの葉を巻きつけた棒を接触させたところ、その巻きつきがわずか2時間で解け、まきひげが「巻きつかなかった」状態になる、あるいはそれに近い状態になることがわかった。

このことから、ヤブガラシのまきひげはヤブガラシ自身への巻きつきを避けていることが示唆された。

実験2:ヤブガラシのまきひげはシュウ酸化合物を忌避するのか?

実験1でヤブガラシのまきひげは選択的に忌避反応を見せている可能性が示唆された。

そこで深野氏は仮説を立証するために、シュウ酸化合物を多く含む植物とそうではない植物へのヤブガラシの巻きつきを観察した。

実際の論文では可溶性のシュウ酸化合物と水溶性のシュウ酸化合物を分けて解析しているが、図が立体的で見慣れていないとわかりにくい。ここでは、東京大学大学院農学生命科学研究科 プレスリリース(https://www.a.u-tokyo.ac.jp/topics/2017/20170302-1.html)から図を引用したい。

図を一目見て判るように、シュウ酸化合物の含有量とヤブガラシのまきひげの巻きつきには強い負の相関があった。

また、人為的にシュウ酸化合物を塗布した棒に対するヤブガラシのまきひげの忌避反応も確認された。

一方で、同じつる性植物であるウリ科のツルレイシ(=ゴーヤ)はシュウ酸化合物への忌避反応を見せなかった。

考察

本研究では、ヤブガラシのまきひげがシュウ酸化合物を忌避物質として認識し、それに巻きつかないようにするという柔軟な反応を示すことが示唆された。

過去の研究から、まきひげは1mg程度(あるいはそれ以下)のごく小さな力を物理的に認識して、巻きつき始めることが明らかになっている。したがって、まきひげの巻きつき反応には「物理的な刺激」および「化学的な刺激」の両方が関与していると考えられる。

まきひげがシュウ酸化合物を認識して巻きつきを回避することは、同種に巻きつかないという点で大きなメリットをもつ。一方で、シュウ酸化合物を含む植物は身近にも多く存在している。例えば、私たちが普段口にする野菜ではホウレンソウに多く含まれているし、ギシギシやムラサキカタバミなど、ヤブガラシの周囲によく生える雑草にも多く含まれている。接触した相手がヤブガラシではなくても、ヤブガラシのまきひげがシュウ酸化合物を多く含む植物には巻きつかないことが実験2で明らかにされており、本来自重を支える支柱になり得る植物さえ誤って忌避してしまうのはデメリットと言える。

しかし自然界を見たときに、ヤブガラシがそこかしこで高密度に生えていることを考えると、こうした“錯認”に払うコストよりも、同種を避け、適切な相手を見つけることにより受ける恩恵の方が大きいのだろう。

「ヤブガラシのまきひげがシュウ酸化合物を避けたのは、シュウ酸化合物に毒性があるからではないか?」という可能性も考えられるが、どうやらその可能性は低そうだ。シュウ酸化合物が植物に対して有毒であるという報告は見受けられず、実際、ゴーヤのまきひげはシュウ酸化合物を塗布した棒に巻きついた。さらに、シュウ酸化合物は有毒なアルミニウムを植物体から浄化するために使われることもある。ヤブガラシがシュウ酸化合物を認識するのは、同種を避ける目印だからであると考えられる。

本研究はつる植物の巻きつきのコントロールにつながる可能性があり、さらなる研究が必要だ。

・まきひげはどうやって化学物質を認識しているのか?

・どうやって巻きつきを停止させ、解けていくのか?

・何故乾燥した葉には巻きついたのか?

・まきひげが化学物質を認識できることは生物間相互作用にどう影響するのか?

これらの疑問を解明していく必要があるだろう。

ヤブガラシのまきひげは多食性ダニに加害された隣接植物を忌避する

次に紹介する論文は京都大学(当時)学部4年生の中井氏と助教の矢野氏が2019年に発表した論文だ。これも論文の構成に沿って紹介していく。

リンク:https://www.nature.com/articles/s41598-019-43101-0

背景

つる性植物は周囲の植物に巻きついて自重を支える。この物理的な接触は、ナミハダニなど植物に甚大な被害をもたらす多食性ダニの侵入経路になりうる。

ナミハダニ: 数百種の植物に寄生し、葉から栄養を吸汁する多食性ダニ。翅をもたず、歩いて移動する。繁殖後のメスが歩いて宿主を探し、他の個体がその跡を辿って移動する。寄生した葉にはクモの巣状の網を張って身を守る。また、寄生された植物は特有の揮発性化合物(SMIPVs)を生産する。(写真:ナミハダニ HORTI(https://horti.jp/4668)より引用)

ナミハダニの宿主は多岐にわたり、ヤブガラシも例外ではない。その宿主範囲の広さから、ヤブガラシが巻きついている植物にも寄生できることが多い。巻きついた植物がナミハダニに重度に寄生されてた場合、まきひげの上を歩いてヤブガラシに侵入して寄生するだろう。

植物にとって、食害から身を守れるのであれば、それは常に生存に有利になるはずだ。また、上で紹介した論文でヤブガラシのまきひげが化学物質を認識できることが示唆されたため、中井氏らは次のような仮説を立てて研究を行った。

仮説

(1)ヤブガラシのまきひげは、ダニから酷く食害を受けた周囲の植物には巻きつかない。

(2)ヤブガラシのまきひげは、クモの巣状の網やSMIPVsを利用して、ダニの存在を検知する。

実験1:ヤブガラシのまきひげはダニの存在を検知できるのか?

まず初めに、つる性植物のヤブガラシとアサガオを使って、ダニを寄生されたインゲンマメに対するまきひげの反応を観察した。

それぞれのまきひげをダニに寄生されたインゲンマメと寄生されていないインゲンマメに近づけ、まきひげが180°以上巻きついた割合を計測する。(写真:Fig.1a)

その結果、アサガオのまきひげはダニ寄生の有無にかかわらず巻きついた一方で、ヤブガラシのまきひげはダニに寄生されたインゲンマメには巻きつかないことが確認された。(写真:Fig.2)

このことから、ヤブガラシがダニを認識して忌避している可能性が示唆された。

実験2:ヤブガラシは何を認識しているのか?

では、ヤブガラシはどのようにしてダニの存在を検知しているのだろうか。ダニに寄生された植物への巻きつきを回避したことから考えると、ダニそのものを認識しているのではなく、SMIPVsあるいはクモの巣状の網を認識している可能性が高い。事実、まきひげにダニを1匹乗せただけでは、まきひげの動向に変化が見られなかった。

そこで、両者がまきひげに与える影響を解析するべく、2つの簡単な装置を作った。

ひとつ目の装置は、SMIPVsを放出する装置だ。重度のダニ食害を受けた新鮮な葉をフラスコに入れ、栓をする。栓にはガラス管を繋ぎ、その先端に穴を開ける。こうすることでSMIPVsが放出されるガラス管を作成した。(写真:Fig.1b)

この装置の穴が開いている部分にまきひげを近づけて、巻きつくかどうか検証した。

結果は、SMIPVsの有無とまきひげの巻きつきに有意な差は見られなかった。そのため、まきひげが認識して忌避している物質がSMIPVsであるとは言えない。(Fig.3a)

次に、クモの巣状の網について検証するために、割り箸の先にクモの巣状の網を付着させた実験装置を作成した。コントロールとして、何もつけていない割り箸に加えて、本物のクモの巣をつけた割り箸も用意した。(Fig.1c)

その結果、ダニが生産するクモの巣状の網をつけた割り箸にヤブガラシのまきひげが巻きついた割合は、何もつけていない割り箸および本物のクモの巣を付着させた割り箸と比較して、有意に少なかった。(Fig.3b)

興味深いことに、有意差はなかったものの、何もつけていない割り箸より本物のクモの巣を付着させた割り箸の方が、ヤブガラシのまきひげが巻きついた割合は多かった。

また、ダニが生産するクモの巣状の網にふれたまきひげは、単に巻きつかないのではなく、カールして蜘蛛の巣状の網を回避するような動きを見せた。(写真:Fig.4)

このことから、ヤブガラシのまきひげはダニが生産するクモの巣状の網を認識して、巻きつきを回避していることが示唆された。

考察

本研究では、ナミハダニが生産するクモの巣状の網をヤブガラシのまきひげが認識し、接触を回避することで、ダニの寄生を防いでいることが示唆された。

実験1で、同じつる性植物にもかかわらず、アサガオはナミハダニに寄生されたインゲンマメに巻きついた。これは、アサガオが栽培種であることに起因すると考えられる。これは仮説に過ぎないが、アサガオは「緑のカーテン」にも使われるため、“何にでも巻きついて育つ”性質が重要視され、そういった形質をもつ個体が選抜されている可能性がある。

このことに着目し、今後はヤブガラシ以外にもダニを回避するつる性植物があるのか、栽培種と野生種の違いはなんなのか、といった疑問を解決していくべきだろう。

ヤブガラシのまきひげは、カールすることでダニの侵入を防いでることが示唆された。この反応はダニ1匹に対しては生じず、重度に寄生された植物に発生するクモの巣状の網にふれたときに生じる。また、一度カールしたまきひげは、すぐに元の形を取り戻すことがわかった。

このことから、まきひげの回避反応はヤブガラシのダニ対策において、重度な食害をもたらすダニの群れの侵入を防ぐという水際対策であり、活発なプロセスの過程で生じていることが考えられる。

また、統計的な有意差は見られなかったが、何もつけていない割り箸より、本物のクモの巣を付着させせた割り箸の方がヤブガラシのまきひげが巻きついた割合が高かった。クモは植物にとって害虫を捕獲する益虫であり、もしかしたらクモの巣にまきひげが触れると、巻きつきが促進される可能性があるかもしれない。

本研究では、ヤブガラシのまきひげがダニの侵入を防ぐために、クモの巣状の網を認識して回避している可能性が示唆されたが、何を根拠に蜘蛛の巣状の網であると認識しているかは明らかにされていない。

ヤブガラシのまきひげが化学物質を検知できること、似たような物理特性を持つ本物の蜘蛛の巣は忌避しなかったことを考慮すると、クモの巣状の網に特徴的な化学物質を認識している可能性がある。

今後、そのような疑問をさらに解明することで、雑草が茂らないフェンスの開発や、巻きつく植物を限定したフェンスの開発に役立つだろう。

まとめ

今回、ヤブガラシという一般的には嫌われ者である雑草のまきひげに関する論文を2本紹介した。どちらも、「生存上都合の悪いものには巻きつかない」という新発見があった。

19世紀を生きたC.ダーウィンの時代から観察されてきたつる植物のまきひげについて、先進的な手法を何一つ使わず、ほとんど観察だけで新たな発見に繋がり、生物学のロマン溢れる論文だと感じた。

私は高校時代、SSHという「理系に特化した」と謳われているコースに所属していた。実は高校入学時のSSHコース申込用紙にこんな趣旨のことを書いた。

「雑草と野菜を比べて、なぜ雑草が強いのか明らかにしたい。」

申込用紙を書いた時の思いつきだったので、高校在学中はこんなことひとつも考えずに過ごしていた。さらに言えば、野菜の調査や研究なんて高校では全くしていない。(笑)

ただ、今もこのテーマは面白いと思っている。1本目の論文を読んで「家のブドウの木は自分自身にも巻きついているぞ?」と疑問に思い、2本目の論文を読んだときに「栽培種だから巻きつきに関しても選抜されている可能性があるのか!」と腑に落ちた。もちろん、ブドウのまきひげが最初から忌避能力を持たないのかもしれないが、今回はそれは置いておく。この論文を読んでいて一番面白かった部分は、この“腑に落ちた瞬間”かもしれない。

最後に、このブログのタイトルは「ヤブガラシのまきひげは“味覚”をもつ?」である。

味覚とはなんだろうか。甘い、しょっぱい、旨い、酸っぱい、苦い。すべて何らかの化合物を舌にある受容体が受容し、認識される感覚である。

それを踏まえてまきひげの自己認識よび忌避反応を振り返ってみる。シュウ酸化合物に触れることで「ヤブガラシである(可能性がある)」と認識しているのは、さながら味覚のようではなかろうか。

生物学は日々進化している。生物学・理学・農学といった学問は、人間が作ったもの以外を研究対象とすることが多い。理解されているようでまだまだ未解明なことはたくさんあり、今回のまきひげのように、「身近だけど実は誰も調べていなかった」ということが年に何回か発見される。

今後もそういった研究や発見を発掘して、紹介していきたいと思う。

(一部写真を提供して頂いた大学の仲間たち、ありがとうございました!)